9.09.2007

この手汗の理由

僕の名前は信二郎。

自分でいうのもおかしいことだが、僕はこれといった特徴がない人間だと思う。今は会社に勤めている。結婚はまだしていない。友達十に対して敵は一、それなりに、そして生活もそこそこだ。不安や悩みは、人並みといったところか。ようは、きっと、あなたとも多かれ少なかれ喜びや悲しみを共感できる人間だと、僕はそう思っている。

強いて僕にあって、他人にないものといえば、僕が今恋をしていることが挙げられると思う。恋そのものが類のないものとは言わないが、僕の恋が特別なのだ。誰もがそう思うであろうが。だから、「強いて」挙げればの話になってしまうわけだ。僕は赤面しながらもそう信じている。

僕が一方的に恋をしている女性がいる。その人の名前はアカネさんとしよう。アカネさんと僕は、特別な関係ではない。赤の他人でもない。会話だってできる、いや、ましてや告白だっていつかはするつもりだ。その時はそれなりに一生懸命頑張ってやろうと思う。ただ、今はそこまで至っていないだけだ。ときどきもどかしく思う。僕はそのように案じながらも、前向きに生きているつもりだ。

アカネさんが何も聞かないで10万円貸してくれないかと頼んできた。結果からいえば、僕は何も問わず10万円を彼女に貸した。僕は金持ちではないが、10万円を人に貸したところで生活に支障はない。彼女は悪い人ではないから、僕が力になれるならこの金が返ってくるかどうかは、実はあまり気にしていない。そんな計算をしてしまったことに、いささかイヤなしたたかさに自己嫌悪している。僕は、そう思いながらもワリとあっさりと「あぁ、いつでもいいから」といいながらアカネさんに茶封筒を渡している。

友達十に対して敵は一、僕は人に騙されたことはないと思う。アカネさんも悪い人ではないから、僕は、きっと何も悪いことは起こらないと信じている。

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