9.12.2007

スナック「かのん」より

中途半端な時期に夏休みを申請してしまったものだから、旅館はガラガラだった。色あせたじゅうたん、タバコのにおい、卓球台にUFOキャッチャー。今年はゆっくりしたいというのが妻のリクエストで、大掛かりな計画は一切たてず、この旅館で2泊するだけの予定だった。そういう意味では、このぐずつく天気、ガラガラの旅館、この、飲み込まれそうな夜の静寂、ゆっくり過ごすには非常に都合がよかった。この調子だと今年も、温泉幽霊に出会ってしまうのかなと思ったりもしたが、結果からすると幽霊すら遠のくオフピーク中のオフピークだったようだ。2泊とも、息子と大浴場を独り占め。2泊とも、食べすぎ。2泊とも、すっかり湯疲れ。

2泊とも、妻と息子が寝静まったあとは、ロビーでタバコと読書。最近文庫本がたまる一方だったため、少しは進めることができてよかった。見えないところで、係員が僕のかけていたソファの上の照明をポチっとつけてくれた。天井に設置されたエアコンの音と、外のスズムシの音しかしない中、一冊読みきった。いや、途中から妙な音はあった。遠くで誰かがワイングラスで乾杯をしている音のような。エアコンの風が天井のシャンデリアを揺らしていた。本を読み終えたころは浴衣が見事にはだけていた。

朝食後は、一人でスナックでコーヒーをいただく。
ビリー・ジョエルのベストアルバムがかかってる。
この場所の雰囲気によく合う。
若い頃の声には独特な艶がかかってて甘い。
オヤジになってからは少しトゲがある。

「お父さんは太陽になった」おいてあった。
ガン闘病47日間の記録。
数ページ読むが、悲しくなってすかさず閉じてしまった。
ガン以外の話が自分とかぶり過ぎていて、怖くなった。

よしもとばななという作者の本を読む。
妻に「サンクチュアリってなに」と聞かれて回答に困る。

ケーブルカーで上り、雨と霧、真っ白の世界。
雨の音、以上。感動した。

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