10.31.2006

うっかりミス

婚姻届はとっくに出してあるというのに、男は披露宴の日に失踪してしまった。置き手紙を残して。まゆみ、ごめん。僕はまだ準備ができていない。幸せになってくれ。時が過ぎれば細かいことで問われることはなく、その男のタイミングの悪さを覚えている者はおらず、ただ、失踪した、という大きな事実だけが皆の記憶に刻まれたのであった。

ジロウがその後何をしていたかというと、一言で言えばプラプラしていた。田舎に戻って、数年間家業の手伝いをした。両親も、相手の両親に向ける顔もなく、なんどもジロウを責め立てたがジロウは強情だった。当然このような状況で新しい縁談を持ち込むわけにもいかず、両親は手足をしばられた心境だった。その間多少の悪さはしたが、本気で別の女とくっつくことはなかった。やがてジロウは田舎に飽き、再び都会にいった。ジロウは、ひそかにまゆみと再開できるのではないかと、根拠なしに期待していた。まゆみが他のヤツと結婚してたらショックだよなぁ、と友人には言いたくないフリをしながらも全員にそう漏らしていた。

問題のまゆみがその後何をしていたかというと、ボーゼンとしていた。無理もない。経緯はよく分からず、気づけば寿退社したはずの職場に復帰していた。使い物にならなかった。能力がないわけではないが、自分がそこで何を何でこうしてなきゃいけないんだろう、という心境だった。気の毒だがあまり雰囲気の良い人とはお世辞でも言えず、かつてのモテモテになることはなかった。ジロウへの未練は一年も経てばすっかり冷めてしまい、ジロウへの怒りよりは自分の将来の不安の方が大きかった。

ものの弾みで一度再開してしまったそうだが、結果はあっけなかった、と二人ともそう思ったそうな。

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