7.07.2006

コリドー通りの魔物

蒸し暑い夜。銀座の夜が幕を閉じるころ。
線路沿いのコリドー通りを歩く。
ネオンと黒ずんだレンガが溶け合う。
甘いリキュールの匂いが路上にまで漂う。

白タクのおじさんが待ち受ける。
ホステス達は、満足げのお客をつれて、
無数の巣穴から次々と出てくる。
みんな笑顔。とても平和。

今夜もお疲れ様。

おやすみなさい。

ガード下に、一箇所だけ店で埋まってないレンガの壁がポツリとある。ほら、静まり返った金券屋のとなり。この壁には、コリドー通りの魔物が封じ込められている。だから、この壁は取り壊してはいけないことになってる。真っ黒の肌をした巨大な人の体に、大きなカラスの顔。背中には全長3メートルもの翼。ギンギラ、橙色の目をしてるそうな。

40年前、突然コリドー通りに舞い降りてきて、その場で2、3人食っちまったらしい。そこらの人たちは大騒ぎで、誰か坊さん呼んでこいってなったそうな。たまたま坊さんが近くのスナックでこそこそ、バーボン飲んでたんで、坊さんを席から引きずり落として、坊さんなんとかしてくれい、とみんなお願いしたそうな。カラスの魔物には、坊さんはそれはもうてこずってしまって、レンガの壁に封じ込めるだけで精一杯だった。なにしろバーボン三杯目だったもんですから。

でも、その日からはというと、この薄汚いコリドー通りでも、不思議なほど、今宵のような平和な夜がよく訪れるようになったそうです。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home