7.04.2006

純粋に不順に愛しい

「たちもしないんだったら、ホテルなんかに誘うんじゃないわよ」

女は低い声でいうが、男にはしっかり聞こえている。半照明の部屋は再び静まり返る。カラオケ機の待ち受け画面が数秒おきに色を変える。青から赤へ、赤から青へ。画面にははロンドンの風景が唐突に現れる。ビッグベンや、二段バスの映像。数分前、汗ばんでいたシーツも乾きはじめ、今はエアコンの強風が容赦なく肌を冷やす。事実が判明してから間もなく、二人とも、自分の裸に強い違和感を催す。そのためか、二人の裸体を包む一枚の薄いシーツを、二人ともなかなか手放すことができない。

返す言葉が見つからない。男はうつむきながら、明日の会議、何時だったっけ、と関係のないことばかりを考えてしまう。いつかはこうなるかと恐れていた。顔を上げると、女はベッドから降りて、ソファで下着をはこうとしている。こんなところで一人にされまいと男もベッドを出て、自分の洋服を集め始めた。女の方が一足先に、着替え終えた。

「あたしは先に出るけど」

「ちょっと待てよ」

「どうせ二人揃って出られないでしょ。あたし、まだ終電に間に合うわ。」

白のブリーフと黒い靴下だけを身に付けた男の姿は残念ながら無様だった。
女はすっとんだ発言をする。

「あたしだって、真剣なんだから」

「いや、僕だって」

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