5.18.2005

色付なサイレント映画

二人のスーツは同年くらいに見えた。一人はグレーのピンストライプのスーツ、もう一人はチャイロ。赤坂のとある一本道は幅が狭く、朝はいつも混雑する。チャイロが人ごみの流れに沿ってその道を歩く中、数メートル後ろからグレーが突進してきた。無言で、肩で人ごみをかき分けながら歩いていて、チャイロとぶつかった。たまたま当たり所が悪かったためか、チャイロは豪快にコケてしまった。グレーはそのままその場を去ろうとしていた。

チャイロは何かに取り付かれたかのように、すばやく立ち上がり、自分も人ごみをかき分けながらグレーを追う。グレーの肩をつかんで、ギュルン、と強引に振り向かせる。怒鳴り散らすのかと思いきや、素っ気なく丁寧に、小さなビンタを繰り出した。グレーは呆然。それからはチャイロの腕が嵐のように動きはじめ、怒りの手話を目の当たりにした周囲の人々で、彼の半径数十センチ内に近づける者はいなかった。多分、このようなことを表現していたのだと思う:

「あんた」

「口があんだろ。」

「口、口。」

「オレにはねぇんだよ。あんたが」

「後ろから」

「何も言ってくれなきゃ」

「何も分かんねんだ。」

腕で激怒していた。チャイロの腕がハウステンボスの風車のハネのようにぐわんぐわん動いてるのを見てると、グレーより体が相当大きく見えました。チャイロはすっかり興奮状態で、目も少し、潤んでるように見えました。私はその間ヘッドホンをずっとつけて野次馬していたのですが、私もそろそろ先を進もうと思った頃、グレーは少しだけ、口を開いた。

けど、きっと何も出てこなかったのだと思う。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home