5.09.2005

神隠し

我が家のゴールデンウィーク旅行の最後の一泊は旅館で、親子でひっそりと美味しいものを食べ、ゆっくり温泉につかる予定だった。なにかとヒョイヒョイ忙しい旅行だったので、ただただゆっくりしたかった。その晩、大雨だったことも全然気にならなかった。

ロビーも客室も、なかなか新しそうな旅館だった。開業して数年も経ってないような。こういった旅館に「出る」はずがない。出るはずがないんだが、悪い予感がしていた。

21:30頃、子供を寝付かせてから、妻と交代で風呂に入ることに。私は割と風呂は早い方なので先行。「男湯」の暖簾をくぐると照明が明るい脱衣所。誰もおらず、聞こえるのは扇風機と外の雨音。その時点で十分、<まずい>感はあった。チェックインの時、人でにぎわっていたロビーを思うと、ガラガラであるわけがない。しばらくウロウロと設備を物色した。電気が消えてる隣の部屋にはマッサージ椅子が5つ並んでいた。スイッチを付けて入ると、入り口に一番近い椅子の隣に小さなテーブルと置時計。0:30をさし、何事もなかったようにコチコチ動いてる。ん、と思い自分の携帯電話の時計をもう一度確認するが、22:00。たいしたことでないが、少し、ゾッとした。

湯船は露天風呂及び、室内のヒノキ風呂と大浴場があった。再びガラ空き。老人が一人だけ、ヒノキ風呂につかっていた。半身浴で、うつむき。しんどそうな表情が伺える。相当恐かったが、既に真っ裸なので洗い場の鏡に向かうことしかできない。しようがなくシャンプーし始めるが、都合悪く目を閉じてる状態であの冷たい手がやわらかく私の肩にピト・・・とくる。

「私は、自縛霊です。さっそく命をいただきます。」

「それは困る。」

「・・・。」

「なぜ、私の命を奪うのですか。」

「悔しいからです。私はつい先日このヒノキ風呂で死にました。」

「自然死ですか。」

「ええ。」

「どのように命を奪うのですか。」

「エンマには、奪われるものに選択肢を与えるように言われています。」

死体をこの場所に残すか残さないか。生身として、もしくは魂としてエンマの裁きをうけるか。生身のままであれば死の痛みからは逃れるが、遺族の混乱を伴う。遺体を残すとしたら、人間的な死が必要となるため、それなりの苦しみが伴う。らしい。

こういった状況で

くだらない

と思われるだろうが

裸の状態で

こういうことを判断するのは

すごく、難しい。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home