4.20.2005

大男を抱きしめた

思い出話をします。海外で過ごした大学時代、路上ライブという形で音楽活動をしていました。路上活動への案内人、そして当時の相棒だった人の話です。身長190くらいの大男。くすんだ色のボロボロの服、茶色の肌、肩まで伸びたスパゲッティのような髪の毛。何をして鍛えたのか最後まで分からなかった、一目見て体脂肪率一桁だとわかる、見事すぎる逆三角形な体系。なによりも、その大男の笑顔がズビズバ放つ、何の根拠もない、半ば強引なポジティブ・エネルギーがなによりも印象的だった。金も行き先も電話も時間もない人だった。住まい?あったかどうか分からない。

「おまえって歌えるんじゃん!ワ~オ!ケーイ(私)、ザッツ・グレイト!」

なぜか自分のことのように喜んでくれて、大声で笑う。お薬にはまってたわけでもない。私は今思い返せば、人として、彼に恋をしていました。

毎週土曜日早朝、郊外の百姓が都内に集まって開催するバザーが僕らのステージだった。地元のじいさんばあさんも、恐いドラッグディーラー兄ちゃん系も、大学生も、家族連れも睡魔と戦いながらもバザーをにぎわせていた。僕らはその隅っこで、当時のダサいトップ40を、昔のロックを、フォークを、ブルースを、プリンスの「キッス」を、冬にはクリスマス・ソングを、全てアコギ2本と声2本で演じた。パフォーマーの魔力。彼は小学生の女の子の顔をまっすぐ見つめてドアーズという超昔のバンドの歌をなんのためらいなく、世界最大のアリーナにいるかのように歌った。少女は心を奪われ、踊った。ゾクっときた一瞬だった。誰の曲だなんて関係なかった。

私の帰国間近。最後の路上ライブを終え、ギターケースに放り込まれた合計7ドルを持って、真昼間、ガラ空きのバーで乾杯する。彼の表情が出会って以来初めて曇る。

「俺って27歳っていってたじゃん。実は37なんだ。」
「今まで嘘ついててごめん。」
「ケイ、俺は今、恐いんだ。」
「ガン。」

どうせ手持ち荷物が多すぎたこともあって、私は彼に自分のギターをプレゼントすることにした。彼のギターは1曲弾いただけでチューニングが狂ってしまうほどオンボロだった。

バーの入り口で、ぎゅっと抱きしめられた。抱き返さないのが物理的に不可能だった。大男に、純粋に、抱きしめられた。その感触は未だ忘れられない。

帰国以来、彼と連絡を取ることには未だ成功していない。誰か、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア市に住む、金も行き先も電話も時間もないデビッド・パターソン君、現在40歳以上、知りませんか。

コメント1archive

Blogger cayske

勘違いすんじゃねーぞ。美しい話なんだからな、美しい話。

6:50 pm  

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