9.18.2010

くじけて良し

たかしまあゆむ、29年5ヶ月目にて体験。生涯無駄使いをした夜ベスト10に入るであろう一つの記録を以下のとおりつづることとする。

あたし、歌には自信があるの、と既に酔っぱらったアカネは僕にいう。友達の友達がハワイでプロデューサーをやってて、この間カラオケにいったらものすごくほめてくれたのよ。キャバクラとOLを足して2で割ったようなメイクとタイトな白いワンピースだった。かわいい、と思える男もこの世の中いなくはないかも知れない。百歩譲るとして、その背伸び感は僕にとってコミカルな文脈で微笑ましく思えた。

そっかあ、それはすごいね。模範的な回答、というより、それ以外のサーブレシーブの選択があっただろうか。経緯を話すと長くなる。早い話、僕の意に反してかなり年下のアカネと彼女の友人をカラオケに連れて行くところだった。大人になると断れない誘いがあるという。地下鉄でみた胃薬の広告がそううたっていたのだった。

狭いカラオケバーの席につくと、彼女はすぐさま曲本をパラパラめくりはじめた。最初のジントニックを注文するタイミングでウェイターに華原朋美の最盛期の曲を伝えた。僕自身カラオケバーは初体験で振る舞いに困っているというのに、この娘の図太さときたらまったく頭が上がらない。わざわざ立ち上がって熱唱し、歌詞を暗記してるため画面を見ない。従って、どうしてもこちらとバッチリアイコンタクトをとらざるをえない構図だ。ブリキ人形のように、片手の空中チョップでテンポをきざむ。ギクシャクした空中チョップは終始元気いっぱいだが、サビになると高音が苦しいせいか声が突然聞こえないくらい頼りなくなる。にもかかわらず、120%の自信を持ち続けてアイコンタクトの呪縛から僕は解放されない。いちパフォーマーと考えればすばらしい根性である。

ちなみに、私自身あがり症のためカラオケはどちらかというと苦手である。そして誤解されたくないのは、他人の歌にケチをつけたいのではない。カラオケで上手く歌う必要が一切ないから。私がケチをつけたいのは、アカネそのものである。

閉めに、酔っ払ったチンピラに絡まれる。お兄ちゃん、かわいい子つれてんじゃん(ここに一人いた)、俺とトレードしろや、トレード。ものの一瞬、アカネとウーロン茶のバーターを図ろうと思ったが、さすがに流行りの保護責任らしきものを感じる。面倒なことにならないうち、アカネをつれて店をでた。彼女の友達を、忘れて。

タクシーのなかで、あたし酔っ払いきらいー、と酔っ払っていう。

そうかぁ、そうだよね、と今度は心をこめて彼女にこたえた。

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