二兎を追う者
崎山純子が橋から飛び降りようとした夜、零時を回っているというのに橋を渡る道はすっかり渋滞していた。10キロ先のジャンクションで起きた交通事故の影響で、彼女のいるところまで混雑に巻き込まれていたのだった。
願わくばもう少し落ちついた雰囲気で事を済ませたかったが、彼女にとって決行を取り止めさせるほどのことではなかった。見せ物じゃないのよ、ふん、と思いながら、道を背に手すりをまたいだ。ギャラリーの中から数台の車はクラクションを鳴らしたが、彼女を説得するために車を降りる者は一人もいなかった。どうせそんなもんよ、と彼女はますます決心を固めるのだった。
両手で手すりをつかんだ状態でしばらく想いにふけていると、どんどん近づいてくるサイレンの音が聞こえてきた。振りかえると、大きな救急車が強引に車の合間を切り抜けて走ってきた。ほんの一瞬、崎山は救急車の運転手と目が合ってしまった。運転手は若い男だった。救急車は停止し、男が降りて彼女に近づいた。
「あの」
「止めないで」
「いえ、あの」
「あたしに何か用?」
「飛び降りるんですか?」
「見れば分かるでしょう。そう、私は飛び降りて死ぬの」
「あの、そうですか」
「あなた、説得するにもこれじゃあ全くの役立たずね」
「いや、私は10キロ先の交通事故の通知を受けましてですね」
「じゃあ、さっさと行けばいいじゃないの。助けを求めてる人がいるんだから」
「見ちゃったわけですから、放っておくわけには」
「だから止めないでと言ってるのに」
「そうですね」
「そうですねって、あなたいったいどうしたいの?」
「救急隊員でして、ケガしていない人に対して、何も施す手がありませんで」
「私が飛び降りた後に、助けるわけ?」
「そう、なりますね。説得の方法も、知らないので。正直、困りました」
「あなたがすぐ助けるとなったら、私飛び降りれないじゃないの」
「それならそれで、良いのですが」
「あきれた・・・」
「呆れるのも結構ですが、早く決めていただけませんか?」
「あなたいったい何?」
「次があるんで」
願わくばもう少し落ちついた雰囲気で事を済ませたかったが、彼女にとって決行を取り止めさせるほどのことではなかった。見せ物じゃないのよ、ふん、と思いながら、道を背に手すりをまたいだ。ギャラリーの中から数台の車はクラクションを鳴らしたが、彼女を説得するために車を降りる者は一人もいなかった。どうせそんなもんよ、と彼女はますます決心を固めるのだった。
両手で手すりをつかんだ状態でしばらく想いにふけていると、どんどん近づいてくるサイレンの音が聞こえてきた。振りかえると、大きな救急車が強引に車の合間を切り抜けて走ってきた。ほんの一瞬、崎山は救急車の運転手と目が合ってしまった。運転手は若い男だった。救急車は停止し、男が降りて彼女に近づいた。
「あの」
「止めないで」
「いえ、あの」
「あたしに何か用?」
「飛び降りるんですか?」
「見れば分かるでしょう。そう、私は飛び降りて死ぬの」
「あの、そうですか」
「あなた、説得するにもこれじゃあ全くの役立たずね」
「いや、私は10キロ先の交通事故の通知を受けましてですね」
「じゃあ、さっさと行けばいいじゃないの。助けを求めてる人がいるんだから」
「見ちゃったわけですから、放っておくわけには」
「だから止めないでと言ってるのに」
「そうですね」
「そうですねって、あなたいったいどうしたいの?」
「救急隊員でして、ケガしていない人に対して、何も施す手がありませんで」
「私が飛び降りた後に、助けるわけ?」
「そう、なりますね。説得の方法も、知らないので。正直、困りました」
「あなたがすぐ助けるとなったら、私飛び降りれないじゃないの」
「それならそれで、良いのですが」
「あきれた・・・」
「呆れるのも結構ですが、早く決めていただけませんか?」
「あなたいったい何?」
「次があるんで」
コメント0archive
Post a Comment
<< Home