2.02.2009

すごいくすり

大手製薬会社の社長が研究所の戸をたたいた。社内のうわさで、最近ちょっと訳ありの開発者がヘッドハンティングで入社してきたという情報を仕入れたのだった。どうやらこの男、開発の腕はたしかだが今ひとつ気が利かない、と、やや謎めいた評価が人事レポートに記してあった。

「君が脇谷君か」

「はい、社長。ご用件でしたら、私から伺ったのですが・・・」

「いや、このままでいい。君の仕事を見に来たのだから。今はどのような新薬を開発しているのだね?」

「これになります」

脇谷はオレンジ色の透明な液体が入ったビーカーを社長に見せた。

「これと言われてもなぁ。効果は何なんだ?」

「これは、私が前職の時から長年かけて開発を続けてきたものです。頭痛薬とバイアグラに続いて世の中をアッと言わせる・・・」

「もったいぶるんじゃない」

「異性から嫌われるようになる薬です。」

「嫌われる薬?」

「もっともです。この薬を飲むと、普段身体が発するフェロモンの物質が一部変化されて、約99.79%の異性が生理的に受け付けなくなります。単的にいえば、男であれば一週間は女性に口すら聞いてもらえないことでしょう」

「効果が凄いのは認めるが、脇谷君、これはいったい誰の役に立つのだね?それをやるならモテる薬こそ人類の夢ではないか」

「お言葉ですが「好き」というのは非常に複雑でして」

「どのように複雑なんだ」

「例えば、です。結婚を考えるとき、やらない理由がごまんとあって、する理由が一つしかない、と言うでしょう?」

「聞いたことあるかもな」

「下手な鉄砲うっちゃあ「嫌い薬」の方が出来やすいってことです」

「しかし、脇谷君、繰り返すようだが、これは売れんぞ・・・」

「ダメですかね?」

「ダメだな」

「もったいないですね・・・」

「う〜ん」

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