4.04.2008

牛乳を買いに

そのスーツの男は、マンションの側にある自転車置き場を物色していた。外はもう薄暗く、僕は彼の顔を確認することが出来なかった。彼は何かを探しているようで、そのうち何かに出会ったかのように、あるママチャリのところで足を止めた。そのママチャリは赤い自転車で、前と後ろの両方にカゴがついていた。僕は恐らく、その自転車は彼の物ではないと思った。

その自転車には鍵もチェーンもかかっておらず、男はそれを知っているかのようにスタンドを上げて、ハンドルを握って自転車をゲートから取り出した。一旦スタンドをもう一度下げて、サドルの高さを確認していた。サドルは腰の位置より低く、このままではまともにペダルをこぐことができない。スーツの男は調整を試みた。

自転車はとても古いようで、サドルのネジを緩めるのに大分力が必要だったようだ。その後ネジが緩んだのはいいが、サドルが差し込んであるパイプも中からサビついてるようで、引っ張ってもなかなかあがらない。男は力任せに引っ張ると、サドルごとパイプから抜けてしまい、男はしりもちをついた。左手にはサドル、右手は地面、尻も地面。自転車は倒れていた。再度サドルをはめようとするが、これがなかなかはまらない。

スーツの男はサドルをはめることを諦め、自転車のスタンドを再び下げ、サドルのない自転車にまたがった。いわゆる立ちこぎスタイルで出発を決心したようだ。

スーツの男は思いのほか運転は下手くそで、フラフラしながら夜道の中へ消えていった。

僕はその自転車置き場に入り、取り残されたサドルを拾い上げた。
接続の部分はやはり相当サビついていた。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home