3.28.2008

希望のお布施と十二指腸

薬は一日三回、必ず食後にとってください。一週間分出しておきます。
ちょっと強めの薬ですから、途中で具合が悪くなったりしたら、また連絡ください。
大したことはないと思いますが、念のため来週もう一度、来ていただきましょうか。

今朝、孝治は最後の錠剤をアルミシートから取りはずし、オレンジジュースで流し込んだ。これまで32年間、大きな病気も怪我もしたことがなかったから、突然医者から異常ありと伝えられ、相当動揺していた。でも、体調は大分よくなってきたし、今日医者から「大丈夫ですね」のお墨付きをもらえるか、内心ソワソワしていた。

ドアをくぐり、診療室に入る。医者はデスクに向かってカルテを開いている。

それでは、ちょっと見ましょうか。口あけてください。・・・うむ。

先生、大丈夫ですかね?

まぁ、うん、ノドは問題なさそうだね。

先生、悪いのはノドではないですよね?
先週おっしゃっていたレントゲンは?

そうなんだが。まぁ、こうしよう。もう一週間分の薬を出すからまた来週来なさい。
一週間だけでは、正直進捗がよく分からないのだよ、残念ながら。

相当悪いんでしょうか。

いや、どうともいえないね。申し訳ない、私としてはなかなか言いにくいことなんだがね。恥ずかしいことながら、君の病気には私は何にもしてあげられない可能性が高いのだ。それに、他の医者もどんな病院でも同じことを言われることだろう。この手の病気は本人の回復力と気持しか頼みにならないので、私は先週、ひとまず君に前向きになってもらおうと偽薬を処方したのだよ。それでも、残念ながら今日も何も様態は変わっていないようなんだ。

そうですか。正直に話してくれてありがとうございます。
先生、その病気は、なんという病気なんでしょうか?

正式な病名はない。国によっては呼び名が様々だ。
孝治君、君の十二指腸には神が宿っているのだよ。

神・・・ですか。

そう。食べ物を食べると、通常十二指腸で栄養を吸収したり、するんだけれども、「神」が宿っている人というのは、そこで栄養が不思議に消えてしまうんだ。大便も異常ないんだが、徐々に体が明らかに衰弱していく病気だ。だから、「神」が君の変わりに栄養を吸い取ってるとしか思えないのだよ。

先生、そんな非科学的な話があっていいんですか?

進められる療法は、おはらいくらいかね。

孝治は既に半歩、診療室を出ていた。

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