3.10.2008

美味しい話

フルフェイスのヘルメットをかぶった男が銀行に入ってきた。その様相から、次に取り得る行動は一つしかないと誰もがその瞬間に思った。男はすかさず言う:

「みんな手をあげろ!」

コートの中からピストルを取り出し、周りからよく見えるように上に向けた。銀行員も、警備員も、客として来ていた主婦とその子供も一斉に手をあげた。男はすばやく窓口に向かい、袋を銀行員に渡した。

「ひとまず、この袋を現金でいっぱいにしろ。早く!」

銀行員は言われたとおりにこれでもかと札束を詰め込んだ。誰かが警告ボタンを押したので、ものの15分くらいで銀行の前には5台のパトカーとやじ馬が集まった。お前は囲まれている、無駄な抵抗はせずにでてきなさ~い、と警察はいう。ただ、男は妙に冷静だ。窓のブラインドから外の騒ぎを確認し、人質となった人たちに目を向けた。その穏やかな表情には皆おどろいた。

「私は誰もケガさせるつもりはありません。これから提案をするので良く聞いてください。一度しか説明しませんから。」

男は人質を全員解放すると約束した。ただ、一人だけ残ってもらいたいという。その一人の役目というのは、男が銀行を出て自分にクルマに移動する間の、いわゆる「たて」となることだ。男の計画だとその一人もクルマに一緒に乗ってもらい、適当なところで降りてもらうというのだ。報酬は袋に入った現金から500万円支払うという。

「いい話だと思うのですが、いかがでしょうか。」

その後、開放されて警察に保護された人々は、なんだか複雑な気持ちだったそうで。

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