3.20.2008

インベーダー

こんな家、出てってやる。

おう、出ていけこのドラ息子め。二度と戻るなこのろくでなし。

あんたみたいな小っさい大人だけにはなりたくないね。
俺は自分の道を切り開く。あばよ、クソじじぃ。

一時期そう別れたワタナベ親子。父子ともに頑固な性格だけ似ていて、いずれはこうなるだろうと誰もが予想していた。ただ、月日が流れ、いずれとある東京の片隅で二人ともホームレスとなって再会することを誰が予測できたであろうか。

お互い濃いヒゲと変わり果てた様相にまとわれ、己の分身と向き合っていることに気づかなかった。再会、とはいってもたまたま住まいの段ボールがとなり同士になっただけのこと。どちらかが気が変わるなり、段ボールがボロボロになるなり、日雇いの現場が変わるなり、すぐまた離ればなれになってしまうきっかけはいくらでもあった。

一方、隣同士だからといって、特段会話が発生するわけでもない。ホームレス同士だからといって、いや、ホームレス同士だからこそ馴れ合いというものに敏感だ。稀に望んでこういう生活を選んだ者もいなくはないが、大半は何かと挫折や失敗の結果としてこのような生活を強いられている。誰もが、まるでこうなった自分がまるで自分でないような、時々そんな気もする。だから、敢えて他人の名前なんて聞こうとしないし、深入りしない、一人でいることの方が断然多い。

すいません、「塩」を貸してください。

おう、もってけ。

長いんですか?

7年くらいだ。

ここらへん、仕事は近くにありませんか。

最近はサッパリだ。それより、お前。

はい。

ここはお前が居るべきところじゃない。何せ俺の縄張りだ。
悪いことは言わない、よそで自分の道を切り開いておけ。

悪かったです。明日、また動くこととします。

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