2.28.2008

ヒトシの友達

ヒトシの母親の悩みは、ヒトシに友達がいないことだった。
正確にいうと、友達がいるかどうか分からなかった。
今年ヒトシは小学三年生になる。

毎日学校からまっすぐ帰ってくるし、学校での出来事を尋ねても、フツウ、とそっけなく答えるだけだった。一時期はイジメかと心配したが、家にいるときの言動は何もおかしい所はなく、学校に行くこと自体は苦に感じていなかったようだった。成績はいたって普通。最悪の場合、よその子にちょっかいを出してる可能性についても考えてみたが、他の母親からのヒトシの評判も決して悪くなかったのだ。ズバ抜けて褒めるところはなくても、皆聞かれれば口をそろえて言う。

「いい子よね。」

ある晩、食事中にヒトシが言ってきた。

明日、友達、家に連れてきてもいい?
どんな子が来るのか、気になって夜眠れなかった。

翌日、ヒトシと玄関に立っていたのはどうみても二十歳前後の大学生だった。ヒトシくんのお母さん、こんにちは。平沢といいます。キツネにつままれた気持ちのまま、母親はかろうじて言葉を口から押し出した。ひらさわさん、はぁ、どうぞ。平沢さんはおじぎをし、二人は二階にある居間に向かった。

母親は台所で、お菓子とグラスを取り出した。ジュースより、コーヒーの方がいいのかしら。ジュースとアイスコーヒーとお菓子を盆に乗せ、二階に上がっていった。二人はテレビの前でテレビゲームをやっている。う、ヒトシなかなかやるな。スポーツゲームをやっているようだったが、ほぼ互角の戦いぶりだった。

ジュースとコーヒーここに置いとくわよ。
あ、ガムシロ忘れたわ。

お母さん、ブラックで結構なのでお構いなく。

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