7.22.2007

こしあんが好きだ

二人のサムライが口論していた。二人ともサムライとはいえ、格下ランクのサムライであり限りなく庶民に近いものだった。その品の無さは口論の内容からして明白だった。

なにしろ、最後に残った大福を争っていたのだから。

俺はまだ二つしか食べていない。貴様はもう三つも食べただろう。最後の大福は明らかに俺のものだ。文句があるか。

折半すればいいという世の中ではあるまい、この時代遅れめ。俺は貴様よりはるかに力仕事が多い。しかも、俺はお前より身体も大きいのだし、お前の倍以上食べて何がおかしい。

図体デカいだけのボンクラめ。

なにを。

とまぁ、二人はとうとう刀を抜いてしまったのだった。ただ、ジリジリにらみ合うだけでお互い踏み込もうとしない。なにしろ、二人とも人を切ったことは一度もなかった。最初に集まってきたギャラリーも、いささか飽きがきてしまい、やがてヤジまで飛ぶようになってしまった。

なんでぃ、この腰抜けサムライどもが。
どっちでもいいから早く切れ。
日が暮れちまう。

二人は場所を移ることにした。
権兵衛のじいさんの裏山に行った。

人目の届かないところで、二人は刀をさやにしまった。
もう、やめようか。
ああ、やめよう。

実にくだらないことで争ってしまった。
そうだ、実にくだらない。

切ってもやってもいいんだがな。
俺もだ。目隠し手してでも貴様ごとき。

仇が面倒だからな。
そうだ、仇が。

今日はこれくらいで許してやる。
貴様とは二度と大福など食うものか。

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