7.16.2007

足をもぎ取られる痛み

虫たちにとっては大忙しの季節だ。そんな、ある真夏の夜の酒の席でかわされた他愛ない会話。働き盛りのムカデどんと、バッタどんは職場仲間で、帰り道のスナックで一杯していくことにしたのだった。夜が更けていくにつれて、二匹は気持ちよく酒に酔っていった。

テントムシのママはとっくに奥の部屋に引っ込んで寝ている。ママを起こさないようにヒソヒソ、夜明け前の最後のバーボンをすすりながら話していた。

「バッタどん、先週は本当にまいったことがあってさ。田中のじじぃの庭、ほら、あの盆栽がたくさんあるところ、植木鉢に足がはさまっちゃって56と58本目の足、もぎとられちゃってさ。死ぬかと思ったさ。」

「それは、ムカデどん、気の毒だな。でも、奇遇だ。俺も先週、山本のババァの庭で、ババァの孫の虫網につかまっちゃってさ。」

「そりゃあ、大変だなぁ。よく無事に帰ってこられたもんだ。」

「クソガキにさぁ、右の後ろ足もぎとられちゃって。ほら、今、義足。」

「へぇー。よくできてるな。言われなかったら全然気づかなかったよ。でも、バッタどんにとってはとんだ災難だな。何しろ、バッタどんの自慢の後ろ足だもんあ。俺はたくさんあるから、2本なくなろうと、バッタどんにくらべれば屁でもないわ。」

「いやぁ、もぎ取られる痛みはきっといっしょだよ。」

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