6.12.2007

犯行現場のその後

マンションに空き巣が入ったのは二日前のこと。二日経って、夫婦はやっと部屋の整理に着手できたのだった。これまでは、被害届を出したり、犯人の手がかりを探したり、身内に連絡をしたり、単にその事実からのショックで途方に暮れていたり、何かと忙しかったのだった。

持ち物も多い方ではなく、マンションから「何が」盗まれたのかはすぐ特定することができた。通帳とハンコ、それと妻のネックレスと指輪。空き巣は金目の物をものを探すのに、派手に部屋を散らかしていったのだった。妻は今台所で、割れた茶碗や皿のかけらを拾ってゴミ袋に集めている。夫はリビングで、タンスの中にある重要な書類、盗まれなかったものを床に並べて確認している。パスポート、住民票、マンションの権利書、生命保険。テーブルの上には、冷めてしまった出前のピザの食べ残しが置いてある。

部屋はとても静かだ。ときどき、台所から妻のため息が聞こえる。侵入者の匂いがイヤミかのように部屋に充満している。これは、ヘアトニックの匂いだ。

「刑事さん、犯人はポマードでも、つけていたということですね。」

夫は、先日の会話を思い出す。

「ご主人、ポマードつけてる人なんて、この街に何人いると思うのです。」

「それは、そうですよね。」

若手の刑事だった。妻がそばで泣きじゃくっていた。

「大丈夫ですよ。」

「そりゃ、ここにもう空き巣はいないのだから大丈夫さ。そうだとしても、あなたに大丈夫といわれる筋合いはないね。」

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