黒皮のブーツ
康孝はご機嫌だった。
今日は久しぶりに家族を連れてお出かけなのだ。
ちょっと早起きをした。この日のために、わざわざとっておいたお気に入りのボクサーブリーフに履き替えた。これが、一番重要なのだ。姿見を見る。すこし腹がではじめている。横っ腹をつまんでみる。今に始まったことじゃない。今日、こんなことで悩んでも仕方がないのだ。会社ではいつも紺のスーツを着ているが、こういう日にしか履かないグレーのスラックスをハンガーからおろす。ちょっと、ウエストがきつい。あとは、お気に入りの、着込んだ水色のポロシャツ、思い切って買った茶色のスエードの背広。引き出しの一番手前にあった、ベージュの靴下を履いた。あとは、あの黒皮のブーツで、完璧だ。康孝の最高のオシャレポイントだったのだった。
男のお出かけの支度というのは案外早いもので、少し念入りにやったとしても30分もかからない。女性の支度の時間も考えると、男だけ早起きする必要はあまりない。康孝は歯を磨き、ひげを剃り、ヘアトニックをつけ、ついでに鼻毛の処理もしてみた。
「おい、早く行くぞ。こういう日は動物園、早くいかないと並ぶんだから。」
「せっかちねぇ、まだ布団干してないのよ。」
「そんなの、帰ってからでいいじゃないか。毎日やってるだろ。」
「あと、ちょっと待ってよ。あたし、化粧もしてないんだし。」
「いいよ、そんなにやんなくたって。」
「どういう意味よ?」
危険な質問が飛んできたので、黙ることにした。
「久しぶりだね、動物園。」
「今日はお食事も外でいい?」
「ああ、いいよ。」
「やったぁ。」
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