5.02.2007

ムッツリのために

有名な画家がいた。モダンな感じの絵を描いていた。繊細なタッチに、ダイナミックな色使い!今世紀最初で最後の大巨匠!周囲は騒ぎっぱなしだった。ただ、彼が具体的に何を意図して表現していたかは、誰にもわからなかった。緑の絵の具がべチャってなってたり、うんこ君の落書きがポツリと描いてあったり。タイトルもついていない。絵につけられたのは番号だけだった。1号。2号。2364号。

何なのかは分からないものの、彼はまぎれもない天才だったのでファンの人はその偉大なアートをそれぞれ、個々で解釈する使命を請け負ったのだった。一番有名な絵は、743号だった。中でも珍しいエンピツのデッサンだった。サクマドロップスの缶を描いたものだった。とても、リアルだった。

問題は彼が亡くなったあとに起きた。彼の作品の値段がグングン上昇する中、画家は何十ページにも渡る遺書で、今まで描いてきた絵一つ一つのタイトルを暴露したことが発覚したのだった。しかも、どれもがとてつもなくダサいか、明らかにパクッたっぽかったのだった。良かれと思ってやったのであろうが、多くのファンは失望したのであった。「ロックンロールベイベー」「ラブラブリブリッ」。

肝心の743号のタイトルはというと、「僕の子供の頃の思い出」だった。
なんともいえない、無難なネーミングに多くの人々は戸惑った。

「はぁ・・・そうですか。」

743号はオークションで1,000円で落札された。
でも、その落札者は大層幸せそうにその絵を持ち帰ったそうだ。

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