4.26.2007

氷河期の向こうが見える

萩原紀子ちゃんのお話。

「あたしは、すぐ結婚する方だと思う」

大学時代は、そのようなことを親にも、友人にも言っていたし、周囲もてっきりそうであろうと納得していた。周囲を引っ張っていくような物腰でなかったし、付き合ってきた男には一生懸命尽くす女性だった。おまけに、というのも何だが見かけも美人であった。叔父は笑いながらいつも言っていた。

「ノリはほんと、トロいからなぁ。騙されそうになったら俺んとこつれてこい。」

34歳の一人暮らし、13の部下を怒鳴り散らすキャリアウーマンになっているとは当時の自分では考えられなかったであろう。でも、今はそれが現実で、漠然とした乙女心にいまさら未練を引っ付けるつもりもない。都内の会社に勤め始めてから、まともな出会いがなかったといえばもっともな話で、自分が特に相手を探していなかったことも考えれば当然の結果だった。

ところが、最近その紀子ちゃんに好きな人ができたのだった。最近は会社でもすこぶる機嫌がよろしい。実は、明後日が彼の誕生日なのだ。彼を驚かそうと思い、紀子ちゃんは自宅でセーターを編んでいる。感覚が鈍っているせいか、なかなか手際よくできない。2ヶ月間、毎晩編み続けている。

大事な日が迫っているというのに、とんだ発見をしてしまった。編み始めたところの近くで、毛糸がほつれている。大分目立つミスだ。バカ正直というのはなかなか直らないもので、紀子ちゃんはセーターの毛糸をほどき始めた。こんなに時間を掛けて編んだものも、あっけなくすぐほどけてしまう。ようやくミスを犯した箇所までほどいたころ、足元の毛糸が小さな山となっていた。

まだ、大丈夫。手の感覚は戻ってきたのだから、2日も徹夜すればできるわ。
悔しさと、手の施しようのなさに伴い涙がこみ上げてくるのだった。

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