元も子もないから
「人食いテー、う゛~」
人食いゾンビが街角に立ってた。腰のあたりで、電柱に縛られている。通りすがりの善人が封印をしてくれたに違いない。そうとはいえ、もちろん、私は彼の前を通り過ぎるのは恐かったが、その先にある郵便局にどうしても行かなければならなかった。あと、ちょっとで五時だ。今日中に保険料の振込みをしていないと、妻に叱られるのであった。こっちだって、人食いてーという悩みこそないかもしれないが、それなりに緊急事態だったのだ。
目を合わせずに、ゾンビの腕が届かない距離を考えて通り過ぎようとした。
「う゛~人食いテー」
聞かない、聞かない、と。
私は無事に郵便局にたどり着いた。ところが、突然背後に女性の悲鳴が聞えてきた。振り向いちゃいけない、でも振り向いちゃう。美しい女性がゾンビに捕まっていた。流れる長いスカートを、ゾンビの腐った手につかまれたのだ。距離を誤ったに違いない。ゾンビは彼女の足から食べてしまうようだ。
「きゃ~たすけて~」
あっという間に右足がなくなった。
私だって人間だ。でも、人間だから自分の身もかわいい。
「きゃ~たすけて~」
「おーい、助けてやれないんだけど!」
「きゃ~」
「名前は?」
「ひろしま~はるこ~」
左足がなくなった。
「身内はいるのかー」
「父さんがー五反田ーきゃ~、ひろしま~のぶお~」
「事情ー、説明しておいてやるからー、安心しろー」
「いや~もうーたすけてー」
それが、私のできる精一杯だった。
人食いゾンビが街角に立ってた。腰のあたりで、電柱に縛られている。通りすがりの善人が封印をしてくれたに違いない。そうとはいえ、もちろん、私は彼の前を通り過ぎるのは恐かったが、その先にある郵便局にどうしても行かなければならなかった。あと、ちょっとで五時だ。今日中に保険料の振込みをしていないと、妻に叱られるのであった。こっちだって、人食いてーという悩みこそないかもしれないが、それなりに緊急事態だったのだ。
目を合わせずに、ゾンビの腕が届かない距離を考えて通り過ぎようとした。
「う゛~人食いテー」
聞かない、聞かない、と。
私は無事に郵便局にたどり着いた。ところが、突然背後に女性の悲鳴が聞えてきた。振り向いちゃいけない、でも振り向いちゃう。美しい女性がゾンビに捕まっていた。流れる長いスカートを、ゾンビの腐った手につかまれたのだ。距離を誤ったに違いない。ゾンビは彼女の足から食べてしまうようだ。
「きゃ~たすけて~」
あっという間に右足がなくなった。
私だって人間だ。でも、人間だから自分の身もかわいい。
「きゃ~たすけて~」
「おーい、助けてやれないんだけど!」
「きゃ~」
「名前は?」
「ひろしま~はるこ~」
左足がなくなった。
「身内はいるのかー」
「父さんがー五反田ーきゃ~、ひろしま~のぶお~」
「事情ー、説明しておいてやるからー、安心しろー」
「いや~もうーたすけてー」
それが、私のできる精一杯だった。
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