4.10.2007

おじいちゃんの宝箱

多摩次郎は、ときどき両親に連れられて田舎のおじいちゃんの家に遊びに行く。多摩次郎はまだまだチビっ子なので、おじいちゃんの家が実際どこにあるのか、そんなことは分かっていない。大阪であろうと大連であろうと、目的地はおじいちゃんの家。それしか知らなかった。おじいちゃんは一人で暮らしている。おばあちゃんは多摩次郎が生まれた年にお空に行ってしまっている。両親は、多摩次郎がいうことを聞かないと、空のおばあちゃんが見ていて悲しんでいるぞ、という。多摩次郎は空のおばあちゃんのことはよくしらないが、さぞ執念深いおばあちゃんなためか、あまりいい印象はない。その分、おじいちゃんは無口だが温和で、付き合いやすい。

さておじいちゃんだが、タバコが好きだ。家中に、トイレにも灰皿がおいてある。ただ、いつもいるのは居間だ。ちゃぶ台には日記帳と筆がいつもおいてあるが、書き込んでいる姿を見たことがない。両親と多摩次郎がくる玄関まで出迎えはしてくれるが、話が尽きるとすぐ居間の座椅子に戻ってしまう。どんなに蒸し暑くなってもエアコンも扇風機もつけず、プカプカ煙を口と鼻からこぼしながら小さなカラーテレビで高校野球を見ている。音量は小さすぎてよく聞き取れない。母は挨拶をすませ、雑巾がけの準備をする。父は台所に行き、叔父に電話をかける。

「ああ、いま着いた。おやじ元気そうだよ。」

多摩次郎のためには、「じいちゃんの宝箱」が居間に準備されている。宝箱といえども、ただのダンボールだ。中には古いライター、ネジ、キューピー人形など。全部タバコの匂いがついている。おじいちゃんの家に来るたび、「じいちゃんの宝」を一つか二つ家に持って帰っているので、残りは少ない。以前きたときに、多摩次郎が入れておいたまま忘れたウルトラマンのビニール人形が入っている。これも、他のものと同様にタバコの匂いがついていて、誇りをかぶっていた。キューピー人形とまったく同じ時の流れにさらされてきたかのようだった。

「多摩次郎、じいちゃんの宝物、持って帰っていいぞ」

「うん。ねー、ウルトラマンあった。」

「よかったなあ。じいちゃんの宝箱はすごいだろ。」

「うん、すごい。」

多摩次郎は、今回はキューピー人形を持ってかえることにした。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home