1.16.2007

枕元のささやき

豆電球はオレンジ色の灯りを寝室に照らしていた。

私はベッドの右側で、女は左側。

私は子供のころから右に向いて寝る癖がある。女は仰向けだ。背中を向けていることになるが、仲が悪いとかそういうのではない。寝返りをうったりもするが、最終的には右向きでないと寝付かない。それだけのことだ。こういう状態のときは、右の耳は枕にうずまっているので、左の耳でしか音を察知することができない。

「ねぇ」

「ん」

「今、何か聞こえた?」

「ん・・・ん」

「ちゃんと聞いてよ。ねぇってば。もう。」

「何の音」

「ね・・・戸締り・・・」

女の声は次第に小さくなっていき、方耳だけでは聞き取れないくらいになっていた。私は寝返りをうつと、女は既にこっちを向いていた。鼻の先が触れるほど顔が至近距離にあり、なにしろ目も大きく広げているので驚いた。女は怯えた表情だった。泥棒でも入ったかと思った。

睡魔とは不思議なもので、おかしな理屈が頭を駆け巡る。もってけ。私は寝る。どうせ、ドタバタ音をたててないもんだから、寝ていることを想定しているのであろう。起き上がって泥棒に立ち向かったところで、ろくなことはない。泥棒も驚いて何をするか分からないし、こっちも自分の持ち物がもっていかれるのと怪我を負うことをくらべれば、やっぱり我が身が大事だ。物欲はいかん、物欲は。

女の怯えはやがて苛立ちになる。

「あんた馬鹿?なんとかしなさいよ。」

声のボリュームがいつの間に普通のしゃべり声に戻っている。

「外に聞こえるって。」

「あなたの家なのになんで侵入者に気使わなきゃならないのよ。」

といわれ、私は近くに置いてあったクイックルワイパーを片手に玄関に向かった。

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