1.06.2007

この身全てをくれてやる

村には二人の音楽家がいた。

カポテという男はラッパの達人で、その向かい側に住むリモネはセロ引きの名人だった。ところが、この二人、同じ音楽家だというのに大層仲が悪かった。人目を気にせずに大声でもめるのは日常茶飯事で、ひどい日には互いに家に引きこもりそれぞれの楽器を目いっぱいうるさく鳴らし、そのような力くらべをしては近所の人たちを困らせた。

ある日、カポテとリモネはどっちの方が優れた音楽家かという言い合いをしていた。カポテは自分のラッパを聴いて踊らずにいられる者はいないと言い、リモネはそれに対して自分のセロを聴いて泣かずにいられる者はいないと主張した。ただ、それだけではどちらが優れた音楽家かを証明することはできず、二人は珍しくそろって頭をかしげていた。

カポテが提案した。二人でやりあってもキリがない。
あそこの、コジキに決めさせようではないか。

カポテがコジキのためにラッパを吹いた。
コジキはよろこんで、踊った。

「こんなに嬉しくなったのは十年ぶりじゃ。」

次はリモネがセロをひいた。
先ほど踊っていたコジキがへたりと座り込んで涙を流した。

「こんなに悲しくなったのは十年ぶりじゃ。」

カポテが言う。やい、コジキ。
どっちが優れた音楽家だ?

「おヌシ等で決めてくれ。それより、ほれ、この老いぼれが最後の金貨をお前達にくれてやる。」

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