11.23.2006

男が薬を飲んだ

男は屋敷に帰宅すると、まっすぐ書斎に向かう。部屋は真っ暗だ。きれいに片付いたデスクの上をオレンジ色のランプがさびしく照らしている。男は椅子にかけ、滅多に開かない一番下の引き出しに手をのばす。中は古い書類や手紙が乱雑している。

医者に薬を処方してもらってから6ヶ月も経つというのに、一度も飲んだことがなかった。その間、痛みは単に辛抱できる領域をはるかに超えるものとなっていった。汗ばんだ手で、しばらく引き出しの中をあさると、薬局の白い紙袋が現れた。10粒の白い錠剤がアルミに包まれている。10日分の薬。いよいよ初めて飲む日が来た。もう、これだけ我慢したのだから許されるだろう。

男はため息をついた。小さな錠剤をパチっとアルミからはじき出す。右手で口まで運び、唇でピルをくわえた。くわえたまま、洗面所に歩いていった。鏡の前にたどり着くと、蛇口から冷たい水を流し、両手で水をすくい、ピルごと流し込んだ。

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