9.11.2006

この世の果てまで

手のひらにのったのだから仕方がない。

朝食をとっていたとき、ねずみが顔をヒョイと出した。ねずみは嫌いでない。ねずみに対する特別な感情がないと言った方が正確かもしれない。トーストからミミをちぎって、しゃがんで手を出してみる。チッチッチッ。人はなぜかあらゆる小動物に対してもこのおかしな舌鳴らしをする。チッチッチッ。

ところが不思議なことに、ねずみは素直に寄ってきて、ピョンと手のひらにのりパンを両手に持って食べた。こう簡単に人間によりつくのでは、長生きしないタイプであろうと思ったが、いざ手のひらでじっと見ると意外にかわいらしい。あらためて手の大きさと比べてみると、ねずみというのはとても小さい。ハムスターより一回り小さいくらいか。私はねずみにタロウという名前をつけた。

パンくずを食べてすぐさま逃げると思ったが、タロウは動こうとしない。ねずみであろうと何かの縁と思い、私はタロウを背広の左側の外ポケットにそっと入れた。あまり動かないが、ポケットの中でカギでも財布でもない生きてる何かがしっかり感じられる。後で腹を空かせてしまうといけないので、右側のポケットにはパンをひときれ入れておいた。内ポケットにはハンカチを入れた。そう一日を過ごした。

帰宅後、私はその背広をハンガーにかけてクローゼットにしまった。

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