8.28.2006

顕微鏡の下に居る

掃除をしていた母親が、少年の勉強机の引き出しをそうっと覗き込む。悪意があったわけでない。母親の自分の子供に対する好奇心というのは、子供の好奇心そのものに限りなく近い。無論、何かまずいものを見つけたとすれば少年に問うであろうが、大体黙って見ている。こればかりは母親の性質なのだから、仕方がない。

少年の引き出しの中身は汚い宝箱だった。ガリガリ君の「当たり」棒が10本ほど、エロ本の切り出し、テストの答案、シールやカードがたくさん。すべてのものに鉛筆の削りカスの匂いがついている。好きでたまらなかった玩具を見捨てられない、そんな時期だ。深くさぐるほど、古いものが現れてくる。小学1年生の頃書いた絵や、ボロボロのけん玉。

古いジャポニカのノートが引き出しの底にあった。ページをパラパラめくる。

「読んだな。」

この台詞に一瞬ドキっとするが、母親宛てに書かれてないようだ。交換日記。今や小学生の間でレトロブームなのであろうか。しかも相手は女の子のよう。「その本は去年の夏に読んだな。まーまー面白かったよ」。母親はくすっと笑う。その本は夏休みの終わりに、あらすじだけを父親から聞き出していた。背伸び、である。

「ユウちゃんのお母さんはキレイよね。うらやましいわ。」

「お袋はフツー、だよ。」

母親はパタリとノートをとじる。

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