7.25.2006

キッチンタオルは見た

女はひどく酔っ払っていて、一人暮らしのマンションに帰宅するとまっすぐ台所に行き、冷蔵庫からポカリを取り出した。飲み干したペットボトルをごみ箱に投げ込み、尻をポリポリかきながら風呂場に向かった。

「ちっ、また半ドアかよ」

我慢の限界だった冷蔵庫は重い口を開いた。暗闇の中、台所がざわめく。お前も喋れるのか、我も我もと、次から次へと家電達が目を覚ました。この数年間、皆それぞれの孤独を生き抜いてきたが、こんなにも身近に仲間が密集していることに、今夜はじめて気づかされた。台所はしばらく歓喜に包まれた。

冷蔵庫をはじめ、下の階の冷凍庫、炊飯器、ガスレンジ、電子レンジ、換気ファン、魔法瓶、(出番の少ない)ホットプレートは粗大ゴミ行きまでの友情を誓い合った。ただ、話合いをするにも共通の話題があまりなかった。冷蔵庫は米の炊き方も、換気扇の回し方も、電子レンジのらくらくメニューについても、まったく共感できない。結局、女の話題になった。当然、愚痴の言い合いがその結果だった。

どうにかして女をこらしめることはできないかと、家電達は考えた。故障したとしたら、誰が一番女に迷惑をかけることができるか。

「当然あたいやね。だって、ご飯炊けなかったら食事にならんもん。」

「メシ炊くのは週末だけじゃ。あの女は週4回はコンビニ弁当。オイラがいなきゃオナゴのメシはカチンコチン」

「火がなきゃ、料理とはいわんね。その気になれば、俺だって米くらい炊けるもん」

皆の熱弁は次第にエスカレートしていった。
突然冷蔵庫が怒鳴った。

「ミチコさんを支えてるのは俺だ。もんくあるやつはかかってこい。」

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