2.07.2006

共通の敵

その年の冬は大層ながく、厳しかった。

小さな村は深い深い雪につつまれ、なにせ山の奥の奥にあったもので、村人は助けを呼ぶこともできず、外の者も村に来ることができなかった。手元の僅かな食料と燃料と水で持ちこたえられると、希望に頼るしかなかった。中には自らの食料を仲間と分け合ったり、他人の持ち物を奪ったり争ったり、ションボリと死を待ったり、生き残った者はそれぞれ思うように日々を過ごした。ただ、皆に共通していたのは、次死んでしまうのは我が身かという恐怖と、春はまだかまだかという静かな願いだった。

そんなある日、村長の娘が外に出かけると、庭に一つの小さな花が咲いているのを見かけた。それは今にも雪に埋もれてしまいそうな小さな花だったが、娘は村中が聞こえるように叫んだ。

「春がくるぞぉー」

村中大騒ぎになるのは当然で、皆村長の庭に押しかけてきた。

「なんでぃこんなちっぽけな花で期待させやがって」

「まだ1月になったばかりじゃ、先はまだまだ長ぇんだくだらねぇ」

「んにゃ、これは神様の仕業にちげえねぇ。このバチあたりが」

「救われてぇんだったら、花に謝るんだ。春が来なくなるぞ、このバカどもめ」

「俺にも見せろ」

「押すな、押すな」

信じる者も疑う者もいたが、花が気になるのは皆同じだった。それから何日も村長の庭は人でにぎわって、春はいつくるのか、この花はなんなのか、神は何をたくらんでいるのか、と論争は延々と続いた。不思議にもこの間、命を落とす者は一人もいなかった。

3月になるとすんなり春になった。

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