10.12.2005

抜擢

女はただ、いつもの通勤路をたどっていただけだ。

地下鉄の出口から、道を50メートルほど歩き、大きな商業ビルの回転ドアを抜けて中央ロビーへ。3階分の天井の高さを誇る巨大なエレベータホールにはエレベータが16台、通路の左右に8台ずつ、設置してある。それでも全てのエレベータが朝のラッシュでごった返しだ。

ここは5,000人の社員を有する大企業の本社ビル。
皆の表情は緊張感にあふれている。

女は右手の列の3号機のエレベータに乗り込む。満員電車に乗るときの癖で両腕を胸元で組む。自分が勤める会社だからといって、セクハラが起きないとは言い切れないのだ。ただ、いつまで待っても人並みが押し寄せて来ない。扉の方に振り向く。いつもであれば15人くらい詰め寄せるエレベータには6人しか乗っていない。ドアは閉じ始めている。

いや、男が一人、走って乗り込んできた。7人になった。そのままドアがゆっくり、完全に閉じる。偶然だったのかもしれないが、人混みは3号機に入ろうとせず、隣の2号機と4号機へとパラパラ別れていった。不思議なことが起きるものだ。

......................

エレベータ内の独特な静けさ。

最後に走り込んだ男以外、扉の上にある、階数を示す表示版を動物的に見つめている。

「2」...

「3」...

「4」...

「4」...

「4」...

エレベータは動き続けているようだが、表示は「4」のままで変わらない。故障、か。

女は、最後に乗り込んだ男が、ちょうど他の乗員と向き合っている状態であることに気づく。他の者も、一人ひとり、男と目が合う。それを読んだかのように、男は小さく咳払いをし、口を開く。

「みなさん、今日は集まってくれてありがとう。今日は重大な発表があるんだ。」

コメント2archive

Anonymous Anonymous

めちゃめちゃ自分勝手な奴だな(笑)

6:48 am  
Blogger cayske

みなさんも一度、試してみては。
きっと楽しいはず。

7:48 pm  

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