10.05.2005

タロットの裏づけ

毎日病院に通ってるわけでもないので、現代医学がどれだけの進歩を遂げてきたかなんて、検討もつかないわけだ。いつもやってることは大して変わらない。体重計の表示が電子パネルになった。採血の針が子供のころと比べて細くなった。これくらい?あれくらい?わからない。何を持って進歩とよべるのか。

男はしばらく調子が悪かったので、普通の病気ではないというのは薄々感じていた。ただ、そうだとしても、肝心の「知らせ」のショックというのはやはり大きい。

「富士さん、大変言いにくいことなんですが。」

「はい。」

「ガンですね。」

「やはりそうでしたか・・・。治療は?」

「それが、残念ながら手遅れのようです。治療で余命が伸びるとも到底思えないのです。」

「・・・」

「お気の毒ですが」

遺言書を書かねば、仕事をやめて旅にでなければ、家族や友人と時間を過ごさねば、あぁ、俺の人生はなんて短くて意味のないものだったのだろう、といろんな想いが頭をよぎった。医者もそれに気づいたようで、こういう:

「まぁ、気持ちは分かりますが、あせることないですよ。」

「・・・」

「・・・」

「・・・俺の余命はどれくらいなのだ?」

「27年間ですね。」

「27年間?」

「27年間です。」

「2、3年、とかそういうやつじゃ・・・」

医者は笑いをこらえた・・・。

「そんな大雑把なことは言いませんよ。いえ、ちょうど27年間と2日ですね。95パーセントの確率ですけど。あなたのカルテから、自殺の傾向もなさそうだし、ただ、まぁ、交通事故の可能性が5パーセント前後あるのですが、このガンで亡くなられるのはほぼ確定かと。27年間ですね。最近はシミュレーションの精度もかなり上がりましたからね。予定日は10月7日です。」

「でも、先ほど手遅れって・・・」

「いや、重いガンですよ。勘違いしないでください。治療を試みることもできますが、ほとんど入院しっぱなしの生活になることは間違いないですし、完全に取り除くことができないのです。もちろん治療する場合のシミュレーションも行いましたが、このケースだと完全脳死が30秒くらい遅れる程度なんです。治療しても、ですよ。だったら、入院せずに残りの27年間を一生懸命、生きた方がよほど良いと思いませんか?お金も、ねえ」

「かまいませんから、治療してくださいよ、先生助けてください・・・」

「いや、やめてくださいよ。私だって、助かる人の方を助けたいんです・・・」

お昼休みが終わったので、男はションボリと会社に戻っていった。

コメント2archive

Anonymous Anonymous

お前バンド辞めて小説家でも目指せば?

11:57 pm  
Blogger cayske

目立ちたがり屋だからなぁ。

12:21 am  

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