9.07.2005

ヤケクソの続編

本物の男の子になったピノキ夫は村中の話題となった。奇跡だ魔術だとヤンヤヤンヤ、ゼペットじいさんの家の周りは野次馬でいっぱいだった。願い事がかなったのだからゼペもピノも喜ばないわけにもいかなかったが、予想することもできなかった障害も沢山あった。

ゼペはもうじき70歳だというのに、未だ定年できていない。親戚などいないわけで、ピノが訪れる前はヒソヒソと死ぬつもりだった。今はそれどころか、ピノの養育費を稼ぐのに前の倍以上働いていた。操り人形なんぞピノの気持ちを思うともう作れるわけにもいかず、大工仕事の主力製品もなくなっていた。ウン十年も仕事道具にしか向き合っていなかった期間もあり、親としてどのようにピノと接すればいいのかも分からなかった。不器用な愛情をぶつけにぶつけたが、ピノは反発するばかり。思ってはいけない、思ってはいけないと自分に言い聞かせようとするが、人形のままでいればよかった、と思ったときもあった。

子供は残酷だ。ピノは0歳から6歳までは「木」だったのだ。なぜかしゃべることは出来るが、学問で遅れをとってしまっているのは言うまでもない。ウドの大木とバカにされ、根性焼きされるなり、ひどい目に会う日もあった。なによりもつらかったのは、死を恐れることになったことだ。せっかくの機械の体をあきらめてしまったのだった。ああ、なんて僕はおろかだったんだろう、と思うときもあった。

ピノは地味に育った。ゼペは85歳で亡くなり、ピノは欝になった。タップダンスしか脳がなくてもいいから操り人形に戻りたいと思った。そこで妖精が再び現れた。そして、会社に就職すればいいじゃない、とアドバイスした。ピノはちょっと気が楽になった。

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