9.02.2005

職人のプライド

帰り道の出来事だった。大通りの歩道を歩いていた。ようやく、涼しい風が吹き始めた頃だった。背広を着ても汗をかかないくらいに。静かだ。今夜は人気が少ない。車も見当たらない。それにしても、静かすぎる。

横道から人影が飛び出してきた。若い女と思う。ひゅっ、と私に顔を向ける。ものすごい形相だ。足元が動かなくなる。人影はスタ スタ スタタタタとまるで獲物を狙うネコのように接近し、とうとう、顔と顔の間2センチもないくらいどうしようもない近距離に。

くわっ、と目をおっびろげて、

「があ゛ぁぁぁぁ!」

あまりの恐怖に腰を抜かしてしまった。地べたにへたり込んでしまった。
その瞬間、

「びっくりしました?」

「・・・ ・・・ あんた何者だ?」

よくよく見ると、20前後のやせた女性に見える。少しだけ茶色に染めた髪の毛に、どうやらブランド品のような黒いTシャツとズボン。スニーカーをはいている。そして、なぜだか普通にニッコリ笑ってる。誇らしげだ。

「あたし、妖怪なの。」

改めて顔から足まで見てみる。何も変わった要素があるわけでもない。

「妖怪・・・って、絵本とかで出てきそうな?」

「そうよ。育てられた人間に教えられたのよ。妖怪だって。」

「でもなぁ」

「なによ」

「どこが妖怪なのさ。確かにさっきは恐かったけど。」

「ちゃんと見なさいよ。ほら、私の手のひらをみてごらんなさい」

手のひらだけ肌の色が黒かった。黒人さんのように。確かに変わってる。

「もっとさぁ、決定的な。。。あの、ツノとか、シッポとか・・・クビが伸びるとか」

あきれたように、鼻で笑う。

「あたしがツノとかシッポを生やしてなにをしろと?」

「いや、そういう意味では」

「あたしが人間とでも言いたいの?」

「いや、そうでもなくて」

「人間だったらこんな変なマネしないわよ」

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