6.07.2005

ユートピア

場所は大企業の社長室。部屋の中心に、大の大人が横たわれるくらいの立派なコゲ茶色のデスクと深緑の革張りの大きな椅子。両方とも外国からわざわざ、取り寄せてきたものだった。昭和初期生まれの人間にはどう見ても大きすぎる椅子。社長は私を社長室に呼び込む。大事な取引先のお偉いさんと、食事を設定したいらしい。あれだ、新しくできた、流行の麻布のフランス料理店だ。東京中の一流シェフが、そこに集まってきてるそうではないか。そこを予約しろ。今すぐ。私は社長に、多分あそこはムリですよ、と警告したが、私を誰だと思ってる、極めて不愉快だ!といわんばかりに、部屋から追い出される。木曜日の7時の予約を取ってくるまで帰ってくるな、と。

「席」は問題なく予約できたのだった。ただ、問題は席の確保ではない。東京中の一流シェフがこの店に集まることには理由がある。社長は得意げに、取引先と席につく。俺はいつでも好きなところで食べれるのだ。ウェイターに、最高級のコース料理を持ってくるように命じる。

「お客様は大変ツウなのですね。通れば、よろこんでお持ちしましょう。では早速、筆記試験と面接を受けていただきます。」

「なんの冗談だ。」

「冗談などございません。私どもは最高級のフランス料理を提供しますが、それを食すお客様も最高級でなければ料理の価値をお分かりいただけません。我々のシェフは、お客様のレベルに合った料理をお出しします。では、頑張ってください。」

筆記はフランス料理の基礎材料や、ワインの種類やヴィンテージ、テーブルマナー等について、面接はフランス語で行われた。サラリーマン社長ごときがパン以上のものを口に出来なかったのは言うまでもない。育ちながらも、何を食べているかを考えたこともなかったのだから、しょうがない。皮肉にも、今までに食べたことのないくらい美味いパンだったらしい。

帰りにラーメンを食べたそうだ。

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Anonymous Anonymous

なんだ、この古典落語みたいな作り話は?

10:10 pm  
Blogger cayske

星○一 風味・・・

10:40 pm  

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