7.02.2011

障子に穴を開けるな

便りがないのは良い便り。

母さんの口癖だ。ヨッちゃんの話をするとき、関係なくても一度は必ずこれを言う。ヨッちゃんとは私の兄の義政のことで、7年前専門学校にいくとかで都会に行ったきり帰ってきていない。

ヨッちゃんは昔から頭が良くて、学校の成績はいつも学年で一番だった。ただ、ヨッちゃんにとってそれはどうでもいいことだったと思う。一時期、受験するかしないかで周りには悩む素振りはしてたけど、はなっから大学に行く気がないことを私は知っていた。雅美、お兄ちゃんな、東京に行くからいつか遊びにおいで、と言い残したのだった。

ヨッちゃんのことだから、のたれ死になる心配はまずないと思った。けれども、遊びにこいとか言うけれど、なんとなくヨッちゃんとは二度と会えなくなる気がしていた。

時々、ヨッちゃんが何をしてるか想像してみたりする。サラリーマンかも知れない。医者か、それとも弁護士になって裕福な生活をしている可能性だってある。ひょっとしたら日本にいないのかも知れない。ガード下か占い師かも知れない。

母さんは気にならないの、とたずねてみても首を横に振る。知りたい気もするけど、知らないのも悪くないわ。どんな男だって隠し事の一つ二つはあるものなのよ。人様に迷惑かけないことだけは叩き込んでおいたんだから、あたしの仕事はもうなにもないの。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home