5.30.2008

ブスな心に育つ声の持ち主

「もしもし」

「仕事をしませんか?副業のご提案です」

「どんな仕事だ。お金には人並みに興味はあるが、私はとても忙しい。なにせ、毎日会社に通わなければいけない。」

「決して難しいことではありませんし、時間もかかりません。やっていただきたいのは、寝るまえに髪の毛を五本ほど、抜いてください。報酬は一晩分で5千円、月末にご参加いただいた日数にかけて銀行振り込みいたします。やる夜、やらない夜はあなた次第です。抜いた毛は捨てていただいて結構です。」

「冗談はよそにしてくれ」

ガチャリ。変態と一言でいえるものの、本当に妙なやつがいるものだ。男はしばらく気分が悪かった。風呂に入ってる間も電話の声の持ち主が気になって仕方がなかった。反射的に相手を突き放すような話し方をしてしまったが、考えれば考えるほどあの副業の話が本当だったら悪い話ではないじゃないか、と半ば思えてしまうのだった。

男は裸のまま洗面所の鏡のなかの自分と向き合い、目立たなさそうな耳まわりの髪を五本抜いた。その、翌日も。その、翌翌日も。月末になると、電話の向こうの声が約束した通り、1万5千円振り込まれていた。通帳には「メイワクリョウ」と記載されている。

そのとき、かつてない酷い吐き気が男を襲った。

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