5.30.2007

回転ドアに留まりたい

人事部の山田幸太郎は頭を抱えていた。変なことで悩まされるもんだ、と途方にくれていた。
今朝、営業部の若手の沼山啓治を人事部に呼び出して打ち合わせをしたのだった。入社2年目の沼山君はとても優秀で、同僚にも上司にも高く評価されていた。性格もよく、どんな小さな仕事もイヤな顔一つせずにこなしてくれるし、いざという客前の席でも的確なコメントで仕事を進めやすくしたり、場を和ませてくれるのだった。まだまだ商品の知識や場数という面では未発達だが、間違いなく将来性のある若者だった。

そんな沼山君に係長への昇進を告げるための打ち合わせだった。山田幸太郎は頭の中で既にシナリオを描いていた。笑顔でおめでとうと言い、沼山君が笑顔でそれを受け入れ、こんなに早く昇格してもいいんですかと照れながら笑う。しかしながら、実際の沼山君の反応がいまひとつ優れない。

「これって・・・今のままじゃだめですか?」

そういうのだ。係長になりたくないらしい。なぜかね、と尋ねてみるが、質問で返ってくる。なぜ、いま係長にならなければいけないのですか?係長になると何か変わるのですか?

ここばかりは大人の見せ場だな、と山田幸太郎は思う。

「それはだな、君の今までの仕事が評価されたからこそ、会社のみんなが良く考えて、今後は君にもっともっと重要な仕事を任せられるためにこうしたいのだよ。君だって、いつまでも20代じゃないんだから、いつまでも花見の場所取りをやり続けるのはイヤだろう?それと、これを言っちゃあ下品かもしれないが、給料も上がるんだから。」

沼山君は一切納得していないようだった。お金は今の給料で自分が生活するには十分です。花見の場所取りとかも合わせて、今の仕事が好きです。まだまだ今のままで勉強することが多いと思います。重要な仕事といいますが、今の私の仕事が重要でないということですか。

「新入社員が入ったら、その人たちと並ぶことになるのだよ?」

僕は、そういうのは気にしていませんから、心配しないで下さい。教えますから。

「この会社に何か不満でもあるのかね?」

まったく、ありません。

さて、この事態をどのように営業部長に報告すれば良いだろうか。

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