12.18.2006

一括払い

「新しいクレジットカードはいかがですか」

若い女性の声が問う。

クレジットカードの勧誘だと知った私は電話を切ろうとしたが、一応ちゃんと断ることにした。結構。いえいえ、お話だけでも。そうかい。

「当社が考案した、まったく新しいクレジットカードです。利用限度額は100億円、そして支払い期限は、あなたがお亡くなりになった時の一度のみです。支払い期限が到来した際には、あなたの銀行口座から自動的に引き落としいたします。万が一、その時の持ち合わせが足りない場合には、ご家族の方に残りの請求額とカードの所有権が引き継がれます。もちろん、前倒しでご清算いただく分にはかまいません。年会費は無料です。利息も0.01%で、かなり好評なのですが・・・。」

「俺が死んでから家族から無理やり取り立てようという仕組みだな。お前たちは新手の悪徳商売に違いない。バックは誰だ。闇キンか?」

「お客様・・・」

「気安くお客様呼ばわりするんじゃないよ。」

「いえ、お客様、それは断じて違います。確かにご家族の方にも請求はいたしますが、あなたと同様の条件で、新しくカードを持たれた方がお亡くなりになられてからです。」

「・・・」

「・・・」

「本当なのか?」

「本当です・・・」

私はそのカードに入会することにした。1週間後に届いたが、見栄えはどこにでもありそうな、ビザカード。不安にさせる。本当にこれで10億円も使えるのか・・・。私は試しにデパートで革靴を買ってみた。1ヵ月後に明細書が送られてくる。今月のご利用金額、5万円・・・今月のお支払い金額は・・・0円。期限・・・∞。どうやら、本当のようだ。これはいい。

私は土地と家を買い、家族にも欲しいものを何でも買い与えた。そして、内緒で会社を辞め、ギャンブルと旅行と女三昧の日々を過ごした。30年近く、その秘密を守り続けた。誰も、私のことを疑うこともなく。誰も。

私はもう若くない。

最近、久しぶりに事業を始めた。
まじめに働いたのは、実に30年ぶりだ。
滑り出しこそ地味だが、まずまずの実績だ。

支払い期限に間に合うといいんだが。

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