12.20.2005

罪悪快感

男は椅子から立ち上がり、ゆっくりと洗面所へ向かった。座っていた椅子の正面に大きな窓があり、入ってくる夕焼けの一筋の陽光の中をホコリたちが舞う。その夕焼けの熱で部屋の空気もこもっていた。今日は一度も窓を空けていない。着替えてもいない。くたびれたパジャマのぬくもりから逃げられぬまま、一日が過ぎていった。何も口にしていない。口の中がベタベタする。寝てはいないが起きてるともいい難い状態だった。

両手を洗面台にのせて、少し前かがみになり、じっと自分の顔を見て静かにため息をもらした。中途半端に長い髪の毛が散乱している。出かける時間まで、15分、20分くらいか。やることが沢山ありすぎる。少しゆっくりしすぎたか。何から手をつければよいのか、少し迷う。蛇口のレバーを少し上にあげて、目一杯左に回す。右手を差し出して、水が温かくなるまで待つ。また10秒くらい気を失った。気付くと洗面所は蒸気でいっぱいになっていて、鏡もすっかり曇っていた。男は両手を杯にして、温かいお湯でばしゃばしゃと顔を洗った。パジャマのえり辺りも濡れてしまった。はぎとって洗濯機に放り込む。

歯ブラシを人差し指、中指、親指でやわらかく握った。鏡がロクに見えないので、手が思うように動かない。結局同じところばかり磨いているような気分になり、2分くらいで歯磨きを止めてしまった。寝室に入ると、カーテンが閉まっている。冷え切った洗い立てのズボンを履く。布が固い。長袖のTシャツも肌に冷たく、頭からかぶると洗剤の匂いがする。急いで靴下も履いた。

上着を羽織って荷物を背負い、思いドアを開けると風がほほに噛み付いた。

男は音がでもしない口笛をしながら、駅への道を歩いた。

気分がよかった。

「今起きたんだぞー」と叫びたかった。

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