2.02.2005

砂嵐

「ザー・・・・・・」

帰宅したのは午前1時過ぎだった。新しいマンションに越してきてからもう2、3ヶ月たつ。このマンションに決定した理由は、築浅であった以上に、日当たりのよさだった。妻はそれにえらいこだわりがあるようで、数十件の不動産屋を見回った結果、やっとの思いで入居を決めた。男は妻のすさまじいこだわり方には多少疲れていたが、それより40平米の部屋を後にすることができただけで幸せだった。

「下町のほうが、やっぱりあたしとこの子に合うみたい。」

重いドアを開けると、居間の方からテレビの砂嵐の音がする。玄関の自動センサーがドアの動きを察知し、無言で豆電球がポツリとつく。男は背広を脱ぎながら居間の方へと進み、ひとまず椅子に座って、ため息を一つ、ついてみる。また寝る前に掃除機をかけていたようだ。

男は下着姿になり風呂場へ向かうが、ふと思ったかのように立ち止まり、途中で寝室のドアをそっとあけて覗いてみる。ドアの隙間からの光がちょうど顔にあたったせいか、妻は寝返りを打って、小さな声で「おかえりなさい」という。

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