8.13.2014

備忘録のような

祖父、享年71才。若い頃は登山で足腰を鍛えていたおかげか、身の回りのことは普通にこなせたし、思考も明瞭だった。彼と話していると、71才という年齢もとりわけ年寄りと思えなくなっていた。突然ポックリ逝かれたのがその分ショックだった。

そんな祖父は小説家だった。私は現役の姿を知らないが、そこそこの評判だったらしい。一度ふらっと家に会いに行ったら、スーツを着た出版社のお偉いさんと鉢合わせになり、大先生の偉大さについて暑苦しく語られたこともあった。

私も祖父の物語が好きだった。短編が多かった。子供でもすらっと読めるやさしい言葉で語るのだが、どことなく現実的でもの悲しい話ばかりだった。すらすらと物事が進むような感じではなく、登場人物の日常や心の内側を丁寧に描くような作品が多かった。自転車屋になった兵隊の話。客に恋をしたキャバレーのホステス。売れない音楽家。そういえば、ほとんどの登場人物は金がなかった。

おじいちゃんの本はウルトラマンでないの?とたずねてみたことを覚えている。うーん、じいちゃんはウルトラマンの気持ちは分からなかったなぁ、と笑いながら流された。

祖父の遺品の整理をしていたら、メモ帳が何冊もでてきた。日付も丁寧につけてある。どうやら晩年もひそかに書いていたようだ。身内とはいえ読むのに少しためらったが、最後の一冊を選んでパラパラめくってみる。

最後のページには短い殴り書きがあった。俳句なのか、

このひとは
ふかんぜんだから
うつくしい

と。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home