12.26.2012

受け継がれるもの

私は市原修二(64)自営業。南阿佐ヶ谷の青梅街道沿いにある古道具屋を持っている。父親から譲り受けた店なので、家業といえば家業だが、ここだけの話、特別な思い入れはない。古道具屋なんて二万円の古物商許可を取れば誰だってできるし、儲けも薄い。ただ、時々、少しは人の役に立っていることだけは知ってもらいたいと思う。

品物は大きいものだとタンス、ちゃぶ台、化粧台などの家具。中くらいはボンボン時計、ミシン、フィルムカメラや楽器、アイロン。小物は箸置き、ピンバッジ、ライターやキセル、腕時計なんかもある。年期の入ったものがほとんどで、中には値打ちの物もあるかも知れないが私にはよく分からない。半分冷やかしで入った若者も、雰囲気のあるボンボン時計を見て驚く時もある。おじさん、これいつの時代の?と聞かれるとまるで博物館の館長にでもなった気分になる。

店の正式な名前は市原商店だが、看板の必要は感じたことがない。どのみち来る客はふらっとくる人だけだ。方や、物を預けにくる客は長年の付き合いの役所の連中が多い。大きな声で言えないが、役所は大事な取引先だ。最近の仕入れは、身よりのない人の遺品が多い。

現場に出向くこともしばしばある。店に入る限り大体の品物はこちらで引き受けられるが、書籍だけはキリがないので断ることにしている。ゴミが増えるのでもったいないとは思うが、こればかりは仕方がない。出物の量は人によりきりだが、金持ちも貧しい人も本のたまり具合だけは尋常でない。

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