12.04.2014

フェアプレイ

佐瀬保太郎、29才、稲毛市役所の公務員、趣味はコーヒー煎れ。小学校時代のあだ名はボタロー。地元のごく普通の家庭に生まれ育ち、自ら家庭をつくり穏やかに暮らしたい以外に特段願いはない。よって、現在独身一人暮らし彼女募集中。

相手候補は多くない。ボタローの人間性や交流の広さの問題ではなく、同年代の人口が目に見えて少ない。ボタローとしては年老いた両親の面倒もあるし、そもそも稲毛が好きなので都心に出て行く考えはない。

月に何度か、地元の若者があつまるスナックに通う。若者といっても顔なじみばかりで、店のママも実は同級生。そのママはちょっとしたマドンナ的な存在であり、ボタロー含めて密かに恋心を抱いている輩も少なくない。客への気遣いか、それとも状況を楽しんでいるのかは不明だが、ママは店の外での生活は明かさない。

相手の気持ちあっての話なのでなんとも言えないが、男同士では、出し抜けに最後の茶菓子に手を出せないような状況。あからさまにママを口説く者もいないし、迷惑がかからないよう閉店時間近くになると客がまとめて帰る暗黙のルールとなってる。

ここで唯一男たちに許されてる求愛行為が、ママへの別れの挨拶である。「じゃあまた来るよ」「ゆっくり休んでくれな」「今日は楽しかったよ」など。ボタローのセリフは「気をつけて帰ってくださいね」である。

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