8.08.2019

固定電話

中山悟、男28才システム系会社員、栃木県佐野市出身、東京都中野区在住。ルックス普通、年収420万円独身。

最近の出来事は長年の交際相手と婚約したこと。収入が少ないため結婚式と披露宴の費用は一部両親の援助を受けられることになった。ありがたいことだが、計画に両親のこだわりも考慮しなければいけないのが少し面倒だ。

「田舎のじぃじとばぁば、呼ぶんでしょう?」

「あぁ、そうだね」

「あなたから連絡一本入れなさいよ、世話になったんだから」

「招待状おくればいいでしょ?」

「だめ、電話しなきゃ。身内なんだから」

「来れなかったら逆に気使わせるから、しなくていいんじゃないの?」

「だめ、電話」

「何年も話してないよ。父さんがラインしてあげてよ」

「そんなもの使ってるわけないだろ」

「まじかよ」

結果電話をする羽目になった。

「もしもし」

「あ、もしもし、中山、いや、悟です」

「あー?」

「さとるです」

「…あぁさとるちゃんかい。元気かい?」

「…あぁうん、元気だよ。ちゃんと聞こえる?今電話大丈夫だった?」

電話が苦手だ。相手が話せる状態かわからないのに、こちらの都合で無理矢理会話を進めなければならない。責任が重い。

「あぁ、大丈夫だよ。じぃじと夕飯たべてたのよ(あなたさとるちゃんだよ)。元気かい?」

何回聞くんだ…前置き長いし、繰り返すし、本題にすぐ入れないから電話は嫌いだ。こっちから無理矢理本題を切り出さなければ。簡潔に用件を伝えるのだ、これは会社でも褒められることだから得意だ。

「あ、バァバ、今度オレ、結婚することにしたから。東京の結婚式来てね。父さんも母さんも楽しみにしてるからさ。招待状送るから、郵便見といてね」

「…」

「聞こえてる?もしもし?」

「結婚?」

「そう、結婚」

「まぁおどろいた。いつ決まったの?結婚式?」

「あぁ、8月。招待状に詳細書いてあるから」

「あらー。あらー。どんな人なの?」

「えっと、同い年で、違う会社の人」

「よかったわねぇ…本当におめでとう」

「ありがとう、あぁ、あの、おじいちゃんにもよろしく伝えてね」

しめに入らなければ。

「…」

「…」

泣いてる。どうしよう。おおげさだよ。

「本当によかったねぇ」

「そんなに心配だったのかよ。おおげさだよ」

「そりゃうれしいわよ。あなたも孫とができたらわかるわ」

「そっか」

これから結婚するのに、気が遠くなる話で少し笑えた。

「母さんに変わるね」

受話器を母に渡した。

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