12.05.2015

おかわりなく

三谷和夫、45才男、霊能者から聞いた話。

霊能者の存在を信じてもらえるかはあなた次第になってしまうが、本人の心には偽りないことだけでもご理解願いたい。三谷とは大学時代からの付き合いで、今でも年に何度か二人で飲みに行く関係だ。

三谷は子供の頃から自分にしか見えない世界に気づいていたが、その能力を持って人を助けたり、生活のかてにする考えは社会人になってからのことだった。主な仕事は魂との交信で、最も多いのが先立ってしまった配偶者とのやりとりである。依頼者の事情は多種多様。亡くなってもつながっていたいという思い。近況を伝えたい。通帳とハンコがどこにしまってあるか分からないので霊に聞きたい、という珍しいケースもあったそうだ。

酔っ払った三谷が突然私に言う。

「なぁ坂本、霊は孤独だと思うか?」

さあな、孤独なんじゃない?何せ死んじゃってるんだし。

「それがな、違うんだよ。ついこないだの仕事でさ」

その日は依頼の交信を終え、お客も帰って一人だった。ところが「回線」がまだつながっている状態で、霊が話しかけてきたというのだ。その霊は60才でガンで亡くなった男のものだった。先ほど帰ったのはその妻で、割とひんぱんに交信を依頼してくる常連客だ。

「出会っちまったというんだ」

あの世でも下界でも霊はウヨウヨいる。身体が無いだけで、それ以外は生身の人間とほぼ変わらない。感情も好奇心も欲求もいっちょまえにあるのだ。霊同士が出会って友達になったり、喧嘩したり恋人になっちゃうことも十分あり得ることなのだ。

「奥さんにどう話を切り出していいか聞いてきてさ。知るかっつうんだ」

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